40後半から現役復帰!牛むつみのモーモー日記

1969年生まれで2000年に全日本シクロクロス選手権チャンピオン、その後に現役引退してから約10年。44歳から現役復帰した須藤むつみのBBA底力をお見せします!

【コラム】女子自転車レースの今、そして未来を切り開くために

どもです。

かなり気になる記事がWEB掲載されたので、取り上げさせていただきます。

「女子ロードレースの開催は強制されたもの、発言で注目された自転車界のジェンダー問題」

funq.jp

Bicycle Club編集部の掲載。對馬由佳理さんの記名記事です。この方はスペイン在住で、Twitterからもスペインの自転車情報をマメに発信されております。

ざっくり要約すると、5月13日から3日間にかけてスペインで開催していた女子ステージレース「イツリア・ウィメン」。このレースのオルガナイザーが、地元のラジオインタビューで「この女子レースの開催は強制されたようなものだと見ている。皆が女子スポーツのために何かしないといけないと言っているし、自転車も同じような状況」とコメントしたという。同時に「今後は女子レースの開催が強化され、運営がうまく回るようになってほしい」ともコメントしている。

この発言に対して、開催地元のスペイン・バスク内で批判されたという。「多様化した社会で受容できる考え方ではない」「女子レースの開催は単なる流行でなく、スポーツにおける男性優位主義に勝つためのフェミニズムからの約束である」などなど。

後日、主催団体から公式声明が発表され「バスク地方に女子レースを推進する目的を果たす」旨のコメントとともに謝罪し、大会オルガナイザーからも謝罪コメントが出たもよう。

そして、この問題はスペイン国内だけでなく、国外にも発信されバイシクルクラブ編集部では、スペイン在住のライターによって記事化され、今回の発言に至る背景も地元新聞からの引用などで丁寧に書かれている。是非、上記リンク先の文章を読んでいただきたい。

そのなかから抜粋させていただく。

<抜粋>
スペインの新聞El Españolはエラスコ氏の発言の真意は、「現在の女子レースの多くは、何らかの強制力があった上でオーガナイズされたものであり、スポーツとしての女子の自転車レースの関心の高まりから生まれたものではない。いわば第一に女子の自転車選手をプロとして走らせるためにレースが作られており、男子のレースと同じような重要性を持って作られたものではない」ということであると指摘している。また、同新聞は、「スポーツとしての関心だけでは、現在でもレースオーガナーザ―が女子の自転車レースを作ることはできないだろう」とも言っている。

また、同時にスペインの他紙El Españolは「イツリア・ウィメンのようなレースは女子の自転車レースを推進するのに必要なものである。しかし、自転車レースを開催することで収益を得ているレースオーガナイザーにとっては、いまでも積極的に女子レースを開催することはなかなか難しい。その一方で、社会的あるいは政治的に『女子レースをより多く開催すべし』という流れがある」と指摘している。
<抜粋以上>

先ずは、今回の騒動により女子レース開催問題について、現状を踏まえて提起していること。特にポイントとなるのが「スポーツとしての関心だけでは、現在でもレースオーガナーザ―が女子の自転車レースを作ることはできない」ということ。

對馬氏も書かれているように「女子のレースを増やすことは正しいという共通認識はあるが、オーガナイザー側が女子のレースで収益を見込むことはいまだに難しい」のが現状。男子レース以上に女子レースは「理想と現実」が乖離しているのだ。

ただ、こちらも地元在住の對馬氏ならではの情報として、今大会を主催した団体では2年前から男子と女子の賞金額を同額に設定していることなど、非常に積極的に女子レースの開催を進めている。でも、その団体を代表する人物が「女子レースやるのメンドイ」とコメントせざるえない運営の苦しさがあったのも事実なのだ。

特に気になったのが、スペインの新聞に掲載された一文から。
1つは「スポーツとしての女子の自転車レースの関心の高まりから生まれたものではない」。これは今まで、女子レースを単独開催していなかったこともあり、TV中継など報道が殆ど無い中で男子レースに埋もれてしまっていたからと考えられる。最近では男子レースよりも、決まりきった展開になりにくい女子レースのほうが「面白い!」と、TV中継の視聴率が上がっているという話も聞いている。そのため、この点は今後、もっと女子レースの中継が増えることでクリアできてくるかもしれない。

さらに「いわば第一に女子の自転車選手をプロとして走らせるためにレースが作られており、男子のレースと同じような重要性を持って作られたものではない」ということ。これは上記に続くのだが、やはり注目される機会が増えることで「プロ」として走らせる重要性=価値が出てくると考える。

しかし、上の2点ともに先に必要なのが「女子選手達は、本当にプロレースを走りたいと考えているか?」「女子選手のなかで、プロとして走りたいと思う選手がどれぐらいいるのか?」という点である。

Twitterで見かけた情報で、某男子選手が「12000ユーロから40000ユーロを払うとプロチームに加入できる、というオファーがあった」と暴露していたが、女子選手のなかで、そこまでしてプロチームで走りたい!何としてもウチの娘とか仲間を走らせたい!と思う人がいるか?というと・・・多分いないと思う。

卵が先か?ニワトリが先か?な問題になるのだが、先ずは場を作る必要があり、その場を成熟させて発展させることで興行として成り立つのだし、タレント=選手が育ち食べていけるシステムが回るようになる。

ただ最初から男子レースと同等な開催となると、規模も同じぐらい大きくする必要があるので立ち上げから非常に費用が掛かって「女子だと対して協賛金も集められないのに続けられるかよ!」となってしまう。では、規模を小さくすると「一緒にしろよ!男女平等!!」となる。

男女同等にするのであるなら、最初から同じくらいの価値を生まなければいけない。スタートした時期が遅かったら遅いだけ、今は少しでも早く地道な活動を進めていくしかない、というのが私個人の結論である。いきなり金の生る木はないのだ。

数年、実業団事務局に在籍していた時、Jツアー立ち上げの際に「絶対に女子のポイントリーダー制度も同時に始めてほしい」と捻じ込んだのも同じ理由。スタートラインを一緒にしないと簡単に廃れてしまうからだ。

ツール・ド・フランス」の女子レースも一時、何度も復活しては消えを繰り返して、ようやく今年からステージレースとして復活する。男子のツールは100年以上の開催を続けているのにだ。もう、その時点でスタートが大きく遅れている。そんな男子の伝統レースに対抗する女子レースに出来ること。それは「出来るだけ開催を絶やさずレースを守り抜くこと。そのために何をするべきか?を、主催側も女子チーム側も考えること」に尽きる。

そのために何が足りなかったか?というと報道。ニュースになっていないのだ。今回、問題になったスペインの女子レースにはプロ選手の與那嶺恵理(ヒューマンパワードヘルス)も出場しているが、日本での報道がほぼ無し。「ツール・ド・フランス」女子レースには、今まで何人も日本女子選手が出場してきたが、それに関する報道もほぼ無いのだ。先ず報道がなければ注目されないし、女子レース協賛に繋がらない。今はSNSでも発信が可能なので、発信してほしいし注目もしてほしい。

更に女子自転車チームを10年運営して、途中では小さいながらもオフロードレース主催・運営をして思ったのが、もっと身近にレースを楽しめる環境を作る必要があること。女子やジュニアも含めてレースを身近にするには「手軽に出場=チャレンジできる大会を増やす」しかないと考えている。参加料は安く、コースも短めで簡単、普段乗っている自転車でも参戦できるレースを沢山開催することで、プロレースなど大きなレースの楽しさを、もっともっと楽しめるからだ。

手軽なレースは開催費用を抑えるのがキーポイントになる。それは参加料の安さと参戦のハードルを下げることに繋がる。もちろん大きな規模レースも「祭り」としての機能と楽しさがあるので重要だが、全ての大会が大がかりなレースばかりだと最初の問題「費用面での継続困難」になってしまう場合があるからだ。小さいながらも13年連続で大会を主催運営した経験から考えると、身の丈に合う開催や運営は非常に大事だと考えている。女子チームの運営もプロチームは別だが、身の丈が大事なのかもしれない。

現在、自転車女子Qリーグ・中学生男女Nリーグを運営している立場としては、特に女子とジュニアについては身の丈にあったレースやイベントを数多くおこない、その発展形として大規模な運営に繋げる道筋を出来るだけ早く作ること。現在、既に女子やジュニアに理解ある大会団体や関係者とのネットワークを広げて、いざ大きな大会の開催を必要とした際にチカラを結集できるようにしておくこと。そして女子やジュニア選手の皆さんには、その動きを出来るだけ注目してシェアしてもらうことが大事である。

あと主催や運営側で考えると、運営やチームスタッフ、審判にも女性が少ないことも問題だと考えている。先に書いたツール女子レースのディレクターは元女子選手のマリオン・ルス。私も一応、審判資格を持ちシクロクロス営団体AJOCCの理事でもあるが、なかなか重要な役職やスタッフを女性が勤めている機会が、まだまだ少なく感じる。女子選手の増加も必須だが、同時に運営や審判などスタッフ側にも女性を増やしていくことが必須だ。何より選手経験者やレースファンが大会やイベント運営に関わると役に立つことも多いと思う。

女子レースの魅力を上げ、もっと好きになってもらえるように未来へ繋げる道は皆で進めていきたい。それに尽きるのです。皆、女性から産まれてジュニア時代が誰にでもあったのだから、ね!

ちなみに、こちらが最初に出たイツリア・ウイメンのスタートリスト。

で、コチラが後から出たスタートリスト。22チームから20チームにエントリーが減ってます。

でわでわ。